高抵抗板検出器 (レジスティブ プレート チェンバー: RPC)
1. 測定器の概要と動作原理
レジスティブ プレート チェンバー(RPC)は, 1980年頃イタリアの
R. Santonico [1]らによって考案された,
主に荷電粒子の位置と時間を測定する検出器である.
標準的な構造は, 高い電気抵抗率(1010〜
1013 Ohm*cm)を持つ平行平板電極(抵抗電極)の間にガスを入れ,
その両電極の外側にカーボン塗料など表面抵抗が105〜
106 Ohm/□ 程度の高圧電極を塗り, それに数〜10数 kVの
電圧をかける.
荷電粒子がこれを横切ると, 通過場所のガスをイオン化し, それにより
通過場所で放電が起る. この放電による電流が高圧電極のさらに
外側に張り付けた信号電極に電流を誘電し, これを検出することに
より粒子の通過場所と時間を測定することが出来る.
なお, 抵抗電極にはベークライトやガラスを用い, ガスには,
アルゴン, (イソ)ブタン, C2H2F4,
SF6などを混合したものを用いる.
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| 図1. RPC の外観 |
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| 図2. 断面図(ガラスRPCの模式図) |
RPCには2つの動作モードがある事が今日までにわかっている.
R. Santonico が最初に見つけたのはストリーマモード(または
スパークモード), それより信号電荷量が1/100の動作モード
(1995年ごろ発見[2][3])はアバランチモードと呼ばれている.
ストリーマモードは通常混合ガスとしてアルゴン
を主成分としたガスを用いることにより実現出来る.
このモードでは, 信号が大きく(電荷量>100 pC)アンプも不要で
ノイズも少なく動作も安定しているので, 入射粒子の頻度が低く
(宇宙線の10倍程度)大型で低コストが要求される場合に用いられる.
主な使用例は, 衝突型実験装置の最外部に位置するミューオン検出器,
ニュートリノ反応の検出器, 宇宙線検出器などである.
アバランチモードは, 通常混合ガスとしてC2H2F4
を主成分としたガスを用いることにより実現出来る.
このモードでは, 信号電荷量が小さい(1 pC)ため, 入射粒子の
頻度が高い(1〜3 kHz/cm2)場合でも使用できるため, Large Hadron
Collider (LHC) の検出器などに使用する計画で開発が進められている.
動作原理としてのアバランチとストリーマの発生は以下のように
考えられている. まず, 荷電粒子がガスをイオン化し, 電子とイオン
のプラズマが荷電粒子の飛跡に沿って出来る. このうち軽い電子が
電場で加速され, ガス分子と非弾性衝突を起し, ガス分子のなかの
電子をはじき飛ばす. この過程で自由電子の数が雪崩的に増えて
行く. この現象をアバランチと呼ぶ. アバランチ現象は古くから
知られている比例計数管の信号を生成する機構と基本的には
等しい. ただし, 検出器として具体的に使う場合には大きな
違いがある. それは, 比例計数管ではワイヤーに誘起される
信号電流の99%以上で, ノイズと明確に区別出来る
電流の値を持っている. 一方, RPCのアバランチ現象による
誘起電流はノイズから連続的に分布している. そのため,
アバランチモードでRPCを使用する場合には, 1層だけでは実用的
は検出器としては使えず, 必ず複数の電極層を重ね,
その信号を加え合わせて使用する. これにより
Central Limit 定理が適用出来, 信号電流はガウス型になり,
ノイズと区別出来る[4]. なお, 複数の電極層の信号を加える事は
RPC にとっては比例計数管より遥かに簡単である. それは
高抵抗電極に印加する高電圧の極性を一方向にそろえて,
それらの電極の両側に信号ピックアップ電極を配置すれば
自動的に各層からの信号は加算される.
チェンバーをアバランチモードで動作させる場合は,
アバランチ過程が正電極表面に達した段階で
それ以上放電が進まないようなガスと動作電圧を
選べば良い.
一方, ストリーマーは, アバランチ過程が終わった後にアバランチの先端
(正電極表面と反対側)の高い電場部分から多量の励起分子からの紫外線の
放出が光電効果により電子を発生させ, この発生した電子の
放電(スパーク)によりさらに紫外線が発生するサイクルが起る.
これにより, 負電極に向けて細いスパークが飛ぶ.
これがストリーマ(スパーク)である.
2. 現在の性能とその限界
ストリーマーモードとアバランチモードでは, 特性や性能が
かなり異なるので, 別々に取り扱うことにする.
1. ストリーマモード
位置分解能の極限を決めるストリーマの直径は
数100μmである [5]. また, 誘導信号分布の
フィットをすれば, 直径以下の位置まで原理上は決定出来ると
考えられる.
しかし, 現実の位置分解能は信号ピックアップ電極の
ストリップの幅で決まっている場合が殆んどである. 例えば,
CP非保存実験を行っている Belle 検出器で使われているチェンバー
の場合ストリップ幅はバレル部分で5 cmである. なお, Belle で
使用しているガスはAr/C4/H10/C2
H2F6=30/8/62の比である. また,
C4/H10は, 価格の安いイソブタンと
ノーマルブタンを分離するまえのブタン(ブタンシルバーと
呼んでいる)を使かっている.
時間分解能は実測で1 nsを少し上回る程度である.
2. アバランチモード
アバランチモードはもともと高いレートで働かすために
開発されたが, 時間分解能を100 ps以下まで向上出来ること
が見いだされた. Pestov の頃から平板型チャンバーの
時間分解能はギャップに比例する事が知られていたが,
コインブラ大学のP. Fonte らは[6], ギャップを300 μm以下にし,
4層重ね構造にして, ガス混合比が
iso-C4H10/C2H2
F4/SF6
= 5/85/10 のガス(コインブラガス)を流す事により,
50 psの時間分解能を実現した. CERNのM.C.S. Williamsらは[7],
これを2層の5ギャップチェンバーに発展させ,
50 psの時間分解能を大型(120×7 cm2)
でかつ高レート(1.6 kHz/cm)の環境で実現できる
ことを示し, LHC の ALICE実験のTOFカウンターとして
使われる予定である. この種のチェンバーは Timing RPC
と呼ばれている.
アバランチモードの場合の位置分解能は, ギャップを250 μm
程度にすることによって, 原理上100 μm
以下に出来ると推定されるが, 現在のところ位置分配能を追求した研究
はされておらず, 報告されている分解能はすべて信号ピックアップ
のストリップ幅(一般にcmのオーダー)で制限されている.
3. 使用されている実験
1. 現在または過去に使用
| 実験名 | 用途 | 構造 | 特徴と備考 |
| L3 (CERN) | ミューオン・トリガー | 2 mm ベークライト |
最初の本格的な高エネルギー実験使用 |
| GREX/COVER_PLASTEX | 宇宙線空気シャワー検出器 |
2 mm ベークライト | 宇宙線粒子数検出 |
| MINI (Bari大学) | 水平下よりの宇宙線ミュー粒子検出器 |
2 mm ベークライト | |
| ARGO-YBJ (Tibet) | 宇宙線空気シャワーコア検出器 |
2 mm ベークライト | 気圧の低い条件でのRPC使用 |
| BaBar (SLAC) | ミューオンとKL検出器 |
2 mm ベークライト |
初めての大規模ベークライトRPC使用実験 |
| Belle (KEK)[8] | ミューオンとKL検出器 |
2 mm ガラス |
初めての大規模ガラスRPC使用実験 |
2. 今後使用予定
| 実験名 | 用途 | 構造 | 特徴と備考 |
| CMS | 前方ミューオントリガー用 |
2 mm ベークライト(アバランチモード) | 採択? |
| ALICE | TOFカウンター |
マルチギャップ・ガラス(アバランチモード) |
採択 |
| LHCb | ミューオントリガー用 |
2 mm ベークライト(アバランチモード) | 提案? |
| STAR | TOFカウンター |
マルチギャップ・ガラス(アバランチモード) | 採択? |
| NuMI off axis |
νμ・νe振動実験 |
ガラスRPC(ストリーマーモード) | 採択? |
4. 参考文献
- [1] R. Santonico and R. Cardarelli, Nucl. Instr. and
Meth. 187 (1981) 377.
- [2] I. Crotty, J. Lamas Valverde, G. Laurenti,
M.C.S. Williams, A. Zichichi, Nucl. Instr. and
Meth. A337 (1994) 370.
- [3] R. Cardarelli, R. Santonico, V. Makeev,
Scientifica Acta, Vol XI, Anno XI, Numero 1, 15 Maggio (1996) p.11.
- [4] E. Cerron Zeballos, I. Crotty, D. Hatzifotiadou,
J. Lamas Valverde, S. Neupane, M.C.S. Williams, A. Zichichi,
Nucl. Instr. and Meth A374 (1996) 132.
- [5] I. Kitayama, H. Sakai, Y. Teramoto, S. Chinomi,
Y. Inoue, E. Nakano, T. Takahashi, Nucl. Instr. and
Meth. A424 (1999) 474.
- [6] P. Fonte, R. Ferreira Marques, J. Pinhao, N. Caroline,
A. Policarpo, Nucl. Instr. and
Meth. A449 (2000) 295
- [7] M.C.S. Willimans, Nucl. Instr. and
Meth. A478 (2002) 183
- [8] A. Abashian et al., Nucl. Instr. and
Meth. A491 (2002) 69
5. 製作する人向けの情報
チャンバーを作ってテストするには, チャンバーの製作材料,
製作工具, ガス供給系システム(混合システムを含む),
チャンバーガス, テストのためのチェッキングソース,
高圧電源, オシロスコープ, ケーブルなどが必要です.
高圧電源としては正極と負極の2台が必要で, それぞれ
0-5 kV, 0.1 mA 程度の出力が出るものが必要です.
この規格にあった高圧電源本体は既に持っているとします.
また, オシロスコープとしては, 100 MHz 程度の周波数まで
測定出来るものが最低必要です. ここでは, それ以外に
必要なもののリストを, 近畿大学
工業高専の本田康子氏がまとめられたものを一部修正して
記載させていただきます.
製作材料
| 品名 | 規格 | 備考 | 数量 | 単価 |
金額 | 発売元 |
| 2mm厚フロート板ガラス |
914×813 mm |
|
10 枚 |
|
|
セントラルガラス社 |
| 2mm厚透明塩化ビニル板 |
300×450 mm |
プレス |
6 枚 |
810 |
4,860 |
MEIVAN |
| 0.3mm厚銅板 |
450×910 mm |
|
1 枚 |
2,940 |
2,940 |
MEIVAN |
| 塩ビ加工用ソケット |
1.8 mm |
電極ギャップ |
40 個 |
1,890 |
75,600 |
特注 |
| ニッタ継手 |
EL1/4-PT1/2 |
ガスコネクター |
40 個 |
226 |
9,040 |
(株)ニッタムアー |
| 12μ厚ポリエステル粘着テープ |
25mm×30μ |
透明 |
5 巻 |
|
|
(株)寺岡製作所 |
| 12μ厚ポリエステル粘着テープ |
50mm×30μ |
透明 |
5 巻 |
|
|
(株)寺岡製作所 |
| 両面粘着カーボンテープ |
ST-9149 |
510×500mm |
10 枚 |
1,000 |
10,000 |
ESD-EMIエンジニアリング |
| 250μ厚ポリエステルフィルム |
幅1m |
100m/巻 |
3 巻 |
42,000 |
126,000 |
TORAY |
| エポキシ系接着剤 |
DP-110クリアー |
12個/箱 |
12 個 |
1,620 |
19,440 |
(株)住友スリーエム |
| 接着剤附属アプリケーター |
|
|
1 個 |
5,250 |
5,250 |
(株)住友スリーエム |
製作器具
| 品名 | 規格 | 備考 | 数量 | 単価 |
金額 | 発売元 |
| ダイヤモンド・カッター |
DG-175 |
3A 2〜3mm用 |
1 本 |
1,880 |
1,880 |
MKK |
| 銅板カッター/ハードスニップス |
EHS-11 |
|
1 本 |
714 |
714 |
|
| 塩ビ版カッター |
|
|
1 本 |
630 |
630 |
|
| 作業用ゴム手袋 |
Mサイズ |
|
3 足 |
|
|
(株)尚和化工 |
| ピンセット |
14 cm |
クロームスチール製 |
1 本 |
2,275 |
2,275 |
(株)東京硝子器械 |
| ピンセット |
16 cm |
クロームスチール製 |
1 本 |
2,275 |
2,275 |
(株)東京硝子器械 |
| ダブルクリップ(超特大) |
クリ-J31 |
口幅50mm 10個/箱 |
5 箱 |
950 |
4,750 |
KOKUYO |
| 30 cm金属定規 |
TZ-1343 |
ステンレスルーラー |
2 本 |
|
|
KOKUYO |
| 殺菌用紫外線ランプ |
GL-20 |
|
2 本 |
2,920 |
5,940 |
東芝 |
| 紫外線ランプ用ソケット |
BO-2113 |
20 W |
1 本 |
2,709 |
2,709 |
(株)丸善電機 |
| ディジタルマイクロメーター |
MDC-Lite |
293-805 MDC-25S |
1 本 |
12,500 |
12,500 |
(株)三豊(ミツトヨ) |
| キムタオル |
4つ折り |
24束/ケース |
1 ケース |
10,560 |
10,560 |
(株)クレシア |
| キムワイプ |
S-200 |
72箱/ケース |
1 ケース |
12,960 |
12,960 |
(株)クレシア |
| エチルアルコール |
500 ml |
|
1 本 |
|
|
|
| ピペット |
|
|
1 本 |
|
|
|
ガス供給系
| 品名 | 規格 | 備考 | 数量 | 単価 |
金額 | 発売元 |
| 真空ポンプ用シリコンオイル |
|
|
|
|
|
|
| 三角フラスコ |
300 ml |
|
|
|
|
|
| I字型ガスコネクター |
UCIN1/4 |
100個/箱 |
1 箱 |
18,600 |
18,600 |
(株)ニッタ・ムアー |
| T字型ガスコネクター |
UTIN1/4 |
100個/箱 |
1 箱 |
16,800 |
16,800 |
(株)ニッタ・ムアー |
| 90°エルボ・ガスコネクター |
EL1/4-PT1/2 |
100個/箱 |
1 箱 |
26,100 |
26,100 |
(株)ニッタ・ムアー |
| ポリオレフィン系チューブ(赤) |
PL-1-1/4 |
100 m/巻 |
1 巻 |
12,800 |
12,800 |
(株)ニッタ・ムアー |
| ポリオレフィン系チューブ(黒) |
PL-1-1/4 |
100 m/巻 |
1 巻 |
12,800 |
12,800 |
(株)ニッタ・ムアー |
| ポリオレフィン系チューブ(青) |
PL-1-1/4 |
100 m/巻 |
1 巻 |
12,800 |
12,800 |
(株)ニッタ・ムアー |
| ポリオレフィン系チューブ(乳白) |
PL-1-1/4 |
100 m/巻 |
1 巻 |
12,800 |
12,800 |
(株)ニッタ・ムアー |
| ニードルバルブ付マルチフローメータ |
RK 1203-15-S-1/4 |
|
1 個 |
|
|
(株)小島製作所 |
| 面積流量計(Ar用) |
|
最大流量 10 cc/min |
1 本 |
|
|
(株)小島製作所 |
| 面積流量計(iso-C4H10用) |
|
最大流量 10 cc/min |
1 本 |
|
|
(株)小島製作所 |
| 面積流量計(フレオン134a用) |
|
最大流量 20 cc/min |
1 本 |
|
|
(株)小島製作所 |
| シンフレックスF900継手 |
F900-F-6.35 |
スウェジロック対応 |
10 個 |
1,620 |
1,620 |
(株)フジキン |
| インサート・ブッシュ |
PUW-IN-6.35 |
スウェジロック対応 |
10 個 |
|
|
(株)フジキン |
チャンバーガス
| 品名 | 規格 | 備考 | 数量 | 単価 |
金額 | 発売元 |
| 工業用フレオン134a |
DA-29254 |
10 kg |
1 本 |
12,600 |
12,600 |
巴商会 |
| 工業用イソブタン |
HSX-907 |
2 kg(99%) |
1 本 |
40,950 |
40,950 |
巴商会 |
| アルゴン |
P-41417 |
7 m3 |
1 本 |
10,290 |
10,290 |
巴商会 |
高電圧供給系
| 品名 | 規格 | 備考 | 数量 | 単価 |
金額 | 発売元 |
| コネクター付高圧ケーブル |
RG-59 |
3 m 赤 |
4 本 |
4,800 |
19,200 |
(株)林栄精機 |
| 高圧コネクター(レセプタクル) |
22SHV-50-0-2/133NE |
|
4 個 |
2,290 |
9,160 |
SHUNER社(スイス) |
| 1 M Ohm抵抗 |
|
|
2 個 |
|
|
|
| 1 mm テフロン被覆高圧電線 |
|
|
数 m |
|
|
(株)潤工社 |
| アルミケース |
YM-300 |
W300H50D200 |
1 個 |
1,850 |
1,850 |
TAKACHI |
テスト用放射線源
| 品名 | 規格 | 備考 | 数量 | 単価 |
金額 | 発売元 |
| 法定外放射線源Co-60 |
CO401 |
標準ガンマ線源 |
1 個 |
54,600 |
54,600 |
日本アイソトープ協会 |
| 放射線源貯蔵庫 |
|
|
1 個 |
|
|
ケニス理化学機器 |
| F型鉛ブロック |
F-200 |
|
2 個 |
11,200 |
22,400 |
(株)千代田テクノル |
| F型鉛ブロック |
F-100 |
|
2 個 |
6,400 |
12,800 |
(株)千代田テクノル |
| F型鉛ブロック |
F-50 |
|
2 個 |
4,000 |
8,000 |
(株)千代田テクノル |
6. 執筆担当者の連絡先
氏名: 寺本吉輝, 所属: 大阪市立大学大学院理学研究科数物専攻,
電話:06-6605-2543, ファックス: 06-6692-1190,
メール: teramoto@hep.osaka-cu.ac.jp